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ウィンブルドンのユニフォームが白いのはなぜ?テニスをすると出るアレが理由だった

ウィンブルドンテニスと言えば、服装規則の厳しさが毎回話題となる。

黒いブラが透けているとか、靴底が蛍光色であるとか、ヘッドバンドに色がついているといったヘッドラインが、試合内容以上におもしろいウィンブルドンのニュースとして世界を駆け巡る騒ぎとなるのだ。

すると普段はテニスに興味がない者でも、うわのそらで目にするニュース映像に、選手たちが一様に白いユニフォーム姿であることに気付く。

いや、選手たちが、まるで軍隊であるかのごとくみな同じ「ユニフォーム」を着ているわけではないのだが、一様に白い「テニスウェア」を着用したその姿は緑の芝生に眩く映えてウィンブルドンテニスの美しさを印象付ける一方で、イデオロギー的な香りを想起させるといったら大げさか。

なぜウィンブルドンの選手のウェアは白いのか。

その理由は、テニスをすると出てくるアレだった。

オフィシャルサイトが発表している選手の服装規定

※2018/7/4追記

2018年の公式サイトでは、以下の部分に加筆があった。

4)に、”模様に含まれる色部分の幅は1センチ以内であること”と加わっている。

5)が、”シャツ、ドレス、トラックスーツトップ、セーターの背中側は、必ず全部白でなければならない”、となっている。

6)は、ショーツ、スカート、トラックスーツのボトムは、幅1センチ以下の外側の縫い目のひとつのトリム以外はすべて白でなければならない。

------------追記ここまで

2016年5月29日現在、ウィンブルドンのオフィシャルサイトに書かれている選手の服装規定は以下のようになっている。

 

以下は会場の試合コート、練習コートにおいての練習着や上着も含んだ服装規定とする。

1)選手は、会場エリアに入る際には、ほぼ全体白のテニスに適切なウェアを着用すること。

2)オフホワイトやクリームは白に含まれない。

3)全体に色が入ったものは禁止。首回り、袖回り、1センチ幅以下の色付きシングルトリムは許容。

4)模様に含まれる色も規制対象です。ロゴを不適切な素材で作ったり模様化するのは不可。

5)トップスの背中側は白だけとする。

6)ボトムは幅1センチ以下の外側の縫い目以外は白だけとする。

7)帽子、ヘッドバンド、バンダナ、リストバンド、靴下は1センチ幅のトリム以外は白だけとする。

8)シューズは、底も含めてほぼ全体白とする。大きなブランドロゴは奨励しない。グラスコートシューズの規定はグランドスラムルールに同じ。つま先周りにピンプルのあるシューズは不可。つま先のフォクシングはスムースであること。

9)プレイ中に見えるまたは見えるかもしれない下着は幅1センチ以下のトリム以外は白であること。汗により見える場合も含まれる。さらに、常識的な品性をいつも保つこと。

10)どうしても必要な場合を除いて医療用のサポート品も白を身に付けること。

アオランギパークの練習用コートでのドレスコードは緩和する。

参考元:http://www.wimbledon.com/


日本語にするとこのような感じだろう。

さらに他にもこんなガイドラインがある。1995年に導入されたものである。

1.無地の着色されたもの禁止
2.濃い色やはっきりした色はできるだけ使わないこと
3.蛍光色禁止
4.パステルカラーが好ましい
5.トップスの背面は白1色が好ましい
6.ショートパンツとスカートは白1色が好ましい
7.帽子、靴下、シューズ等身に付けるアイテムすべてのほぼ全体が白であること

参考元:http://www.wimbledon.com/en_GB/atoz/faq_and_facts_and_figures.html

 

ほぼ全体が白(almost entirely white)、という表現と、
白だけ(must be totally white)という表現があり、シューズ以外では、must be totally whiteの表現が使われている。

トリム(部分装飾)に関しては、”acceptable”(認める)といった表現で、この部分の色もパステルカラーが望ましく、白に対して目立つ濃い色は”Little or no”(なしかほとんどなし)、蛍光色は”No"と、なっている。

 

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ウィンブルドンテニスの白いユニフォームの歴史

オフィシャルサイトによると、白ルールが導入されたのは、1963年となっている。
最初は”predominantly white”(主に白)であった。

1995年には、 ”Almost entirely in white rule”(ほぼ全体が白ルール)が導入され、
2014年には、上記の厳しい10項目が、選手ガイドに明記されることとなった。

しかしながら、「テニスウェアは白」という歴史はもっとずっと古く、白ではない色を着ているほうがごく最近のことなのである。

ウィンブルドンのテニス選手権が始まったのは、1877年。ウィンブルドンは、世界最古のテニストーナメントとされている。最初は男子シングルスのみのイベントで、女子シングルスが加わったのは1884年のことであった。

そしてその当時、選手たちはすでに白を着用していたのだ。

テニスで白を着ることはそのまま「慣習」となった。

そしてこの慣習はまた、世界中のテニス大会の慣習ともなった。
テニス界で最も歴史あるウィンブルドンのルールは世界のルールの基本なのである。
テニス選手の服は白というのは、いわば疑うべくなき常識となっていったのである。

時は過ぎ、1972年になると、グランドスラムの一角である全米オープンが、白ルールの緩和を発表する。テニスウェアのカラフル化はここから始まったのだ。

結果、他の大会もそれに倣うこととなり、現在ではテニスウェアが白という観念はもうないように思える。

しかしながら、ウィンブルドンでは、白規定は守られ続けた。それどころか近年は逆に、白規定は厳しくなってきている。こだわりを通りこして強迫症かと思えるほどのやりすぎ感もたっぷりである。

このウィンブルドンの頑なな白規定は、ウィンブルドンの伝統と威光を象徴するものとして、世界にそしてウィンブルドン主催側自身に認識されている。 

 

ウィンブルドンの選手のウェアが白い理由

さて、では1800年代のウィンブルドンのテニス選手たちは、なぜ白いウェアを着ていたのだろうか。

それはウィンブルドンテニス大会の当時の位置づけにある。

ウィンブルドンのテニス大会は、「社交」の場(social events, social gatherings)で行われるスポーツとして始まった。
テニスはお上品で観戦が楽しいスポーツだった。

ところが、テニスの技術が向上するにつれ、動きも大きく多くなって行き、見過ごすことのできない問題が生じることとなった。

「汗」である。

「汗」は、イギリスの社交場には全くそぐわないものと考えられた。よってウェアに現れる「汗滲み」は「たいへん見苦しいもの」と考えられた。

特に女性選手にとってはなおさらであった。

当時は、女性が汗をかいているところそのものが、決して他人に見られてはならないことであったという。まして「汗滲み」などとうてい社交場には「不適切」な「恥ずべきもの」と考えられたのである。

「汗滲み」は選手たちを悩ませる難問となった。

この難問をスッキリと解決したのが「白いウェア」である。
白い布は、ほかのどの色よりも汗滲みが目立たないのだ。

A-HA!

こうして、選手たちは、「白」の着用を選ぶこととなった。

白い服を着ることで、見苦しいものを目に入れることなく、社交場の皆がテニスを楽しめるようになった。

すばらしい解決手段ではないか。

白いテニスウェアは、いわばウィンブルドン流「おもてなし」の心が産んだ誇るべき知恵であったのである。

ウィンブルドンはなぜ白に徹底的にこだわるのか

しかしなぜ、布地の開発が進む現在においても、白にこだわるのか。

汗滲みが目立たないのなら、白じゃなくてもよいのではないだろうか。

イギリスの新聞the guardianで、ウィンブルドンの白について、こんな記事を見た覚えがある。

「ウィンブルドンの白は、ただの色ではなく理想なのだ」

内容はだいたいこんなふうだったと思う。

ウィンブルドンの白規則は厳しくなってきているけれど、それはそもそもウィンブルドンが、predominanntlyとかalmost entirelyとかをwhiteのまえにくっつけるから、じゃあ少しは使えってことだよね、というふうにミスリードしてしまうのではないか。
白は、イギリスでは夏の色、平和なのんきさを象徴する色、穢れなきものの色、信念を表す色、希望と神秘の色、答えを語らない色。白い服は汗以外にも様々な汚れを吸い取り滲みにして数回洗えばグレーになってしまう服。ほんのひと時だけ白として輝く服。白い服の魅力はこの一瞬の輝きにあるのかもしれない。
ウィンブルドンの白は単なる色ではなくて理想そのものなのだ。・・・・

一瞬の輝きに魅力を感じるなんて日本の散りゆく桜みたいではないか。
納得いかなかったけれど、だから印象に残ったのかもしれない。

で、なぜ取り締まるほど白にこだわるのかについての明確な回答は書いてなかったような気がするけれど、これはなんていうか、いわゆる「落書きを消す効果」のようなことなのかと想像した。

ほとんど白といって少しの色を認めた場合、少しが少しずつ増え、やがてはどこかに白が見えればOKにとなり、白規定は有名無実となるのではないか。

だから、小さいことを一つずつ潰していこう。大きくなる前に手を打とうという発想かと。

なぜならこれは伝統だから。真っ白いテニスウェア姿の選手は誇るべき伝統の理想の姿であるから。

伝統は守り理想を追求して何かいけないのか。そこにきっと言葉にできる理由はない。

そして、伝統は威光を演出する。

ウィンブルドンはまちがいなく威光の獲得に成功している。
威光は、いろんな方面にとても便利なツールだ。

たとえばイベントとしての価値。
ウィンブルドンは私設の小さなテニスクラブが主催しているのに、テニスの世界で首位を争う賞金を提供している世界屈指のイベントである。
また、グランドスラム中最も黒字のイベントである。
これはウィンブルドンは威光のおかげではないのか。

ウィンブルドンでは、スポンサーの広告表示をしなくても、潤沢なスポンサーにサポートされている。

ウィンブルドンのスタッフはボランティアが多く、賃金を支払われているスタッフもごく普通の給料を支払われているだけだという。
ウィンブルドンで働くという誇りでスタッフは満たされているのだ。
社会的にもウィンブルドンでの仕事経験は高く評価されるものであるという。

これらはウィンブルドンの頑な白規制も一役買っているに違いない。

よほど人権を無視するものでない限り、いろんな価値が認められる世の中となっている今、理由など求めなくても、そのやりすぎとも思えるこだわりの存在はユニークな価値あるものとして楽しむべきものなのかもしれない。

 

 ウィンブルドンの厳しい規定は選手の服装だけではない

ウィンブルドンでは、選手の服装規定が注目の的ではあるが、厳しい規定は選手の服装だけではない。

会場に訪れる観客にもドレスコードがある。これは席によって違っている。
こちらは選手の服装とは逆に、緩和されてきているが、
2015年、F1のハミルトン選手が招待されたにもかかわらず、ドレスコードで入場拒否されたニュースは世界で報道された。

ウィンブルドン会場は、厳しく手をかけられて整備されている。

ウィンブルドンの芝生のコートは驚くべきミリ単位の精度で刈り込まれている。
ネット周りは芝刈り機でなく、鋏で刈り込んでいるという。
1年をかけてこの大会のためだけに整備しているのだ。

会場の花やプレートは正確に配置装飾され、選手たちの扱いもその功績によって区別が付けられている。
たとえば、優勝経験の選手には会員専用のロッカールームが与えられ、準々決勝以上勝ち進んだことのある選手だけが入れる特別なエリアがある。

ボールボーイやボールガールは、各高校から選抜された後、数か月以上の厳しい訓練をし、試験を経てさらに選抜されているという。
ボールボーイやボールガールは試合をスムーズに進行させるためのコートに溶け込むべき存在であり、目立つことは許されない。

また、コートにスポンサーの広告はない。
広告だらけの他のイベントとは全く違う様相である。
いや、スポンサーとは呼ばず、オフィシャルサプライヤーと呼ぶ。

呼び方といえば、主審は選手をミスター、ミスをつけて呼ぶこととなっている。
また、日本語ではどちらも男子、女子であるが、英語でMen's、Women'sに当たる部分は、Gentlemen's,Ladies'という呼び方になっている。

などなど列挙するといくらでもあるのだが、ウィンブルドンでは規定は必ず守るものでちょっとした違反も許されない。

ウィンブルドンはいわば全体主義なのである。

まとめ

ウィンブルドンの選手のウェアが白である理由は、もともとは汗滲みを目立たなくするためである。
ウィンブルドン創世期、社交場のスポーツの試合であったウィンブルドンテニス大会では、汗滲みは場にそぐわない見苦しいものと考えられていたからだ。

テニスの世界で白いウェアは慣習となり、ウィンブルドンでは伝統として今日でも守り続けられている。

 

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