2008年から、100m、200m、そしてリレーで負け知らずのウサイン・ボルト選手が、現役最後の大会としている世界陸上2017で200mに出場しないという。
世界中のファンが楽しみにしているというのになぜ出ないのか。3冠3連覇という偉業にチャレンジしないのはなぜか。
その理由には最近存在感著しいバンニーキルク選手が出るから、とか、引退するのをやめたからとか、カール・ルイスのせい、とかマイケル・ジョンソンの影響とか耳にしたのだが。。。ボルト選手が200m欠場の理由を調べてみた。
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ウサイン・ボルト200m欠場報道
Fact: Usain Bolt has the most individual medals won by a Jamaican male, with a total of 8. #TVJLondon #IAAFWorlds pic.twitter.com/Z122aS8SI2
— Television Jamaica (@televisionjam) 2017年7月30日
"ファクト:ウサインボルトは最もメダルをとったジャマイカ男子、トータル8"
ボルト選手が、世界陸上の200mに出ないことを正式に確認したのは7月である。その前から、どうやらでないらしい、といった感じであったが、ボルト選手には出場権があって、決定かどうかはわからなかった。
しかしついにボルト選手は、7月のモナコで行われたダイヤモンドリーグ大会前のインタビューで、「ロンドンの世界陸上では100mと4x100mリレーに出場し、200mには出場しない」と語った。
報道ではおおむね、ボルト選手が200mを回避することとボルト選手が「目標はロンドンで勝つこと。勝者として引退したい "My aim is to win in London. I want to retire on a winning note,"」と語ったことが報じられている。
つまり、200mでは勝者として引退できないことが見込まれるから出ないということになるだろうか。
ここまで約10年、負け知らずのボルト選手が200mに勝てない理由は何か。報道をもう少し詳しく調べてみた。
ウサイン・ボルト200m欠場の理由その1
報道からわかるその最大の理由は、
- 故障による調整不足
7/28の英テレグラフ紙の記事では、ボルト選手は体調について「完璧でない」ことを認めている。
- パーフェクトではないけど大丈夫 “It’s not perfect but it should be fine.”
ボルト選手は、リオ五輪以降、古傷の左膝痛の再発や背筋痛を患っていた。最近でも6月にチェコで行われたゴールデンスパイクで、背中に違和感を感じ、走りに影響が出ていた。100mでのタイムは10.06。この試合まで今年は10秒を切っていない。とはいえ結果は優勝である。
チェコ後、ボルト選手はドイツで治療を受けた。そして、モナコ直前7/19のインタービュー記事では「状態はよい」と語り、実際モナコの100mでは、今季自己最高となる9.95で優勝した。
そして、上記の7/28の発言。「完璧ではないが大丈夫」。
ボルト選手は体の故障はあるものの、ロンドン世界陸上100mについては、確実に調整してきていることがわかる。
一方で、国際陸連の今年の200mの記録には、ボルト選手は載っていない。「勝つこと」が最優先課題だとすると、体調を鑑みれば「200mは回避して短距離のみに照準を合わせる」というのがベストな選択肢であったのだと思われる。
【直筆サイン入り写真】 ウサイン・ボルト Usain Bolt /ライトニングボルト ポーズ /ブロマイド オートグラフ
ウサイン・ボルト200m欠場の理由その2 本当はバンニーキルクがいるから出ない?
Who wants some 1/1 that Wayde Van Niekerk will Win both 200m & 400m Gold at the World Athletics Championships?
— World Sports Betting (@WorldSportsBet) 2017年7月31日
BET: https://t.co/7W9QrEYvEW pic.twitter.com/Ajmqk1Tfl2
”ウェイド・バンニーキルクの世界陸上200mと400m両方金メダルで2倍が欲しい人”
南アフリカのウェイド・バンニーキルク選手は、ポスト・ウサインボルトの呼び声高い、今、ノリにノっている選手である。
バンニーキルク選手は、南アフリカの25歳。昨年のリオ五輪400mで、17年ぶりに世界新記録を更新、金メダルを獲得したことで一躍スターとなった。そして、400mだけではなく、100m、200m、300mでも毎年記録を更新し続けていて、まさにピークに向かって駆け上がっている25歳である。今年6月のジャマイカでは、ボルト選手が走らなかった200mで優勝を果たした。記録は今季世界2位の19.84。
世界陸上ロンドン200mでは、その今後を担っていくであろうバンニーキルク選手と選手人生を終えようとしているボルト選手の、「最初で最後の対決」が見られるのではないかと、世界が注目していた。
だから、もしかしてボルト選手逃げる気?と思われてしまうわけであるが、
ボルト選手は、はっきり言っている。
恐れてはいない
と。
ボルト選手は言う。
すばらしい若い選手たちがどんどん出てきている。だからって自分は特定の選手のことで心配したりしない。自分の能力を知っているし、若い選手たちを尊重も応援もしている
バンニーキルク選手については
彼はまちがいなく最高の選手の一人だ
と絶賛。そして、
彼と戦えなかったことは競技人生で最も残念なことのひとつである
と言っている。一緒に走ることを避けているわけではなく、あくまでタイミングの結果こういうことになったと考えている。
彼は実力がある素晴らしい選手だけれど、僕は競技を生きてきたから決して恐れることはないんだ。ただちょっと遅かったよ。もう僕のキャリアは終わるところだ。でもどうなっていただろうね
ほんと、もし対決が実現していたらどんなドラマを見ることができたか。いやー、見たかった。
ボルト選手の言葉は言い訳ではなく、200m回避という決断に他選手の動向は無関係であるだろう。ボルト選手は圧倒的なプロとして言葉通り「自分の能力を知っている」から。
ウサイン・ボルト200m欠場の理由その3 カール・ルイスやマイケル・ジョンソンの影響?
ナイジェリアのchannelstvでは、ボルト選手が200mに出ない理由について、
世界陸上2011でのフライング失格があるから短距離を選んだ
とボルト選手本人が語ったとしている。
うーん、いまいちわからないような。メダルの数ということなのだろうか。
ボルト選手は、2011年の100mでまさかの失格となっていて、そういう意味では世界陸上での金メダルの数が、100m3個、200m4個となり、100mが1個少ない。それから、今年初めに他選手のドーピングで2008年五輪のリレーのメダルがはく奪されているからこちらも1つ減って、五輪と世界陸上の金メダル合計数なら、100m6個、200m7個、リレー6個と200mだけが1個多くなる。ひとつはそういうことなのかな。
ほかの人と比べてみると、このリレー金メダルのはく奪によって、ボルト選手は五輪の金メダル獲得数が、陸上界歴代1位タイから陥落。その歴代9個の一人が、ボルト選手とは険悪な仲といわれるカール・ルイス元選手である。
日刊ゲンダイでは、
カール・ルイスの鼻を明かしたい
というのも200m欠場理由の一つではないかとしている。
今回は五輪ではないし、世界陸上ではボルト選手のメダル数はすでにルイス選手よりも多い。だからルイス氏に対して鼻を明かしたい理由は、メダル数というよりはボルト選手をイラつかせる発言を繰り返すルイス氏その人ということになるだろう。
人類最初の10秒破りをしたルイス氏は昔、ボルト選手のようなスーパースターであったが、今ではボルト選手がルイス氏の記録を抜いているのはご存知の通り。
引退後のルイス氏は、ボルト選手や後進の強い選手たちについて、全体的にあまり好意的とは言えない見下しているともいえる発言を多くしている。
さらにボルト選手たちジャマイカ選手の強さに対して、ドーピングを示唆する発言を繰り返してきた。例えばボルト選手が100mの世界新記録を出した2008年には、「1年間で10.0から9.6に伸ばしたことを考えると問題があると思う。ジャマイカのような国は何か月も薬物検査をしていないこともある」などと言っている。これはボルト選手じゃなくてもアウトでしょう。
ボルト選手の方は、「ルイス氏をリスペクトしていない。いつも薬物の話を持ち出してきてとても不快」、とはっきり言っている。
しかしながら、件のメダルはく奪ではルイス氏の言い分を一部証明したような形になっているわけで、ボルト選手としては一矢報いたいと思って当然であろう。
先出のchannelstvの記事ではほかに、ボルト選手がマイケル・ジョンソン元選手の影響を受けたことも紹介している。
ボルト選手は、ジョンソン選手が「圧倒的に強いのにもかかわらず引退」という行動を取ったことに驚き、本人になぜなのかを尋ねたのだという。ジョンソン選手の答えは、
やりたいことはすべてやった。目標はすべて達成した
であった。
ボルト選手は今回、
自分も今がその時だ
と思ったそうだ。
ボルト選手は、ジョンソン氏を憧れの選手と言っていたから、かっこいいってしびれちゃったに違いない。ボルト選手もジョンソン選手がしたように勝者のまま引退を実現したいと強く願っている。
ジョンソン氏は、ボルト選手のが破るまで、200mの世界記録を12年間保持していた人物である。ちなみにさきほどのバンニーキルク選手が破った400mの記録を保持していたのもジョンソン氏であった。
ジョンソン氏は、2008年にボルト選手が100mの新記録を出すと、ボルト選手が自分の記録を破って200mの新たな金字塔を打ち立てるであろうと予言。ルイス氏とは正反対である。
🥇July 29, 1996: Dallas native and Baylor alum Michael Johnson earns the 2nd of his 4 Olympic golds, winning the men's 400 meters in Atlanta. pic.twitter.com/w3xdJDGx9Y
— DFWSportsPast (@dfwsportspast) 2017年7月29日
"1996年7月29日:マイケル・ジョンソンが4つのオリンピック金メダルのうちの2個目を獲得。アトランタ男子400m"
ルイス氏とジョンソン氏の影響といっても、あーはなりたくない、と、あーいうふうになりたい、という正反対の影響を受けている。
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ウサイン・ボルトは引退しない?
The Team Making Progress #NoDaysOff pic.twitter.com/wTul95VoGZ
— Usain St. Leo Bolt (@usainbolt) 2017年7月30日
ボルト選手は、2015年に翌年のリオ五輪で引退すると言った。しかしながら、スポンサーの要求という理由で2017年のロンドンで引退することに延長になった。
それがまた延長されるかもしれないという。
BBCの報道によると、ボルト選手は
引退する日を完全に決めたわけではない
という。
しかしながら、今季で引退することは決めていて、それがロンドンの世界陸上かどうかはまだわからない、ということらしい。
テレグラフ紙によると、ライバルのガトリン選手が、
ボルトは引退してもまた戻ってくる
と言っているという。
ボルトはロックスター系なんだ。一旦やめたとしても、マジもう一回やりたい、というにきまっている
hindustantimesでは、ボルト選手の父がインタビューに答えていて、
少なくともあと2年引退を延ばしてほしい
と言っている。でももちろん
ボルト選手の決断を受け入れている
そうである。
引退しないにしてもまた戻ってくるとしても世界中が大歓迎なことは間違いない。
「勝者として終わりたい」と言っているボルト選手、それが最大の目標だとしたら、今回の結果は引退に影響するだろうか。
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まとめ
勝者として引退することが目標であるウサイン・ボルト選手は、故障からくる調整不足のため200mには出場しない。200mの新ライバルとみなされていたバンニーキルク選手と欠場には関係がなく、どちらかといえば勝者のまま引退した憧れのマイケル・ジョンソン元選手のようにふるまいたいという理想が最優先課題であるから、確実に勝つために100mに絞るという選択をしたと考えられる。
一応は今大会で引退と決めているが、撤回の可能性がゼロではない。
ほかの誰にも味わうことのできない圧倒的世界一の世界を10年近く生きてきたボルト選手。故障に悩まされる中、ボルト選手の理想の生き方のようなものから導き出された結論が200m回避だったのだと妙に納得できた気がする。負けたくないも一般には同じ意味かもしれないけれど、負けたくないからとはボルト選手は一言も言っていない。だって負けるってことは相手がいるということになるから、ボルト選手にとっては当てはまらない表現なのかなと思う。勝手な思い込みかもしれないが、今回調べてみて、ボルト選手の言う勝つことと日常に思う負けないことには明らかにへだたりがあると感じた。勝つために走るボルト選手。どちらにしても全力で応援していきたいな。
参考サイト
http://www.bbc.com/sport/athletics, http://www.telegraph.co.uk/athletics, http://www.hindustantimes.com, http://www.channelstv.com, http://www.afpbb.com,https://www.nikkan-gendai.com
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